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「“アフリカ”と聞いて、動物、飢餓、戦争、はたまたエイズ渦しかイメージできなかったら、あなたの“アフリカ感”は貧しいです」とは、私がいつも挑戦的にいろいろなところで言ったり、書いてきたりしていることです。
ダーバン中心地へ向かう高速道路 ビルの向こうはインド洋が広がる 例えば、南アのヨハネスブルグやケープタウンは大きなビルやショッピングモールが建ち並ぶ都会ですし、私たちが住むダーバンでさえ、ブロードバンドによるインターネットも月額3千円くらいで配置することができます。 ダーバンの街中の交差点で そして、都会で豪華な分譲マンションに住み、夫婦共稼ぎで自家用車も複数台持ち、欧米式の教養を身につけていて、学歴も欧米の著名大学院卒、外国語だっていくつも話す……。そんな「グローバル・スタンダード」にきっちり沿った“エリート”が存在するのもアフリカです。 2010年のワールドカップに向けて ダーバンのスタジアムの建設も順調に進行中 ところが、故郷に錦を飾るときは裸で豹の毛皮をまとい、現在奥さんは3人、許嫁は3人、正式な学歴は日本でいえば小学校5年生修了、ここ8年ほどは自らが関係した武器汚職などの裁判の被告でもあった人物が、今度、南アフリカの第12代目の大統領になろうとしています。 その人物とは、ジェイコブ・ズマ氏。南アの初の黒人大統領、ネルソン・マンデラ氏がかつて率いた南ア最大の政党、ANC(African National Congress)の党首に2008年から就任しています。どうして彼が最大与党の党首でありながら大統領でないのかは、ここをご参照ください。 5年に一回の南アフリカの大統領選挙が2009年4月22日に行われます。 実は、ここ何日か、悩みに悩んでいます。 なぜか。 それは、この次期大統領に当選確定しているジェイコブ・ズマ氏のことを、どう皆さんにお伝えすれば、南アフリカ全体を誤解されることなく、いまのこの南アの政治状況を理解していただけるのかな、ということになかなか名案が出ずにいるからです。 このズマ氏、以前の私のこのコラムでもご紹介していますが、かなり曰くつきの人物なのです。 いわゆる“西洋的価値観”や、“日本の常識”などで彼のことを理解しようとすると、頭が爆発しそうです。 南アでは、彼の率いるANCがまだ圧倒的に最大政党なので、彼が次期大統領になるのは、もう確定しています。今回、選挙の2週間前の段階で、彼への告訴が取り下げられたのも、かなり政治的な動きだと言わざるを得ません。 裁判がすべて取り消され、笑顔のズマ氏 ズマ氏、国の検察庁が彼の訴追を断念し、8年に及んだ彼の“疑惑”が一応、法律的には晴れたことになりました。が、これはあくまで、検察庁が「訴追を断念した」ということで、裁判で彼の無実が証明された、ということではないのがすごいところなのです。 彼の“疑惑のリスト”は、かなりの迫力です。この8年で、何が起こったかということを簡単に書くと、彼には武器不正輸出、マネーロンダリング、レイプ疑惑(これに関しては無罪判決が出ている)に関わった疑いがあり、これらの罪に対して検察が訴追し、手続きがまずい、と押し返され、また最高裁で押し返された条件が間違っていた、という判断が出され、また同罪状で裁判が起こされ……、と延々と国民の税金を使って、その訴追手続きが正しいかどうかが争われていたのです。 結論は、今回、検察庁が、検察庁の元の長官が彼の訴追時期を特別警察と密約していた、という新たな録音テープでの証拠がズマ氏側の弁護士から突き付けられて、これでは裁判に勝つことができない、ということで彼のすべての裁判が取り下げられたのです。実際の裁判で彼の疑惑が裁かれることはありませんでした。 ただ、この取り下げ方も、法律の専門家たちからは、「絶対、正しい判断ではない、間違っている」との意見が出ています。野党の党首たちは早速、この「取り下げ」の判断に対しての反対の裁判を起こしています。 しかし、これだけ、“まずい”ことをしていたら、日本でなくても、政治家生命は危ういと思うのですが、アフリカではやはり価値観が違います。 「罪が確定するまでは無実 ―“Innocent until proven guilty.”」という厳かな原則がアフリカではかなり説得力を持ちます。 私がまだ20代だったころ、西アフリカのリベリアで、ケニア出身の国連FAO大使が、私にアフリカ人を理解するために覚えておきなさい、と言ったことを思い出します。 「アフリカでは人はモノを盗むんだ。でも、警察に捕まったヤツだけが“泥棒”なんだよ」 つまり、ズマ氏は裁判にかけられることもなく、その訴追そのものが無効になったので、彼は「無罪」である、ということなのです。 でも、日本で育った私たちのように、 「誤解されるようなことはしない」 「お天道様が見ているから、悪いことはできない」 といった価値観の元で育つと、このズマ氏の言うことをすんなり信じて、彼が南アの大統領になることを肯定するには、ちょっと躊躇する気持ちを押さえることはできません。 ずばり、「価値観の相違」というものですね。 この相違をどう対処したらいいのか、ということを探るために、多くの彼の支援者に意見を聞き、新聞、雑誌などに目を通しました。 すると、どうして彼を支援するのか、という問いに対して返ってくるのは、「彼がズールだから」とか、「彼が好きだから」といったかなり主観的なものばかり。 メディアで意見を述べる支援者の意見は、この訴追の違法性を述べることに終始していて、こんなに疑惑だらけの人物を“大統領”とすることに対しての違和感は持たないのか、という私の質問に答えてくれるものはなかなか見つけられませんでした。 これでは国際社会にどうやって説明したらいいんだろう、とかなり悩んでしまいました。 これだけをして状況を説明しようとすると、「南アはまだまだ政治的に後進国だから」と言った乱暴な解析で片付けられてしまいそうです。 でも、私は、政治的に南アがまだ発展途上だからこういうことが起きる、という話ではないと思うのです。これは、南アが欧米の国ではなく、またアパルトヘイトという負の歴史さえも乗り越えてきた国だからこそ、起こり得る政治状況なのではないでしょうか。 南アの近年の歴史は、“許し”が大きな意味を持ちます。 前大統領、ネルソン・マンデラ氏が、彼を27年以上も投獄した白人政権へ一切仕返しや報復をせず、「過去の過ちを取り正すのではなく、将来の国づくりをみんなでしよう」とした考え方は、マンデラ氏の、そして氏の愛してやまない“アフリカ”の懐の深さを顕著に示しています。 ズマ氏は、このアフリカの大きさを非常に上手に彼の作戦に取り入れていると思うのです。 また、彼は、ズール族ですから、ズール族の人々が特に尊重する、「村の長の決めたことをそのとおりに実行する」という考え方をも有効に使っていると思います。 つまり、彼が代表するのが、「伝統的なアフリカの価値観」そのものであること。これは、確かに国民の大多数を占める貧しい層にとっては、心強いことなのです。乱暴な言い方かもしれませんが、目の前の自分たち以外の“富裕層”、つまり非アフリカ的価値観にのっとって成功しているものたちに対する反感の気持ちもここに加勢しているのではないかと思います。 彼らにとっては、ズマ氏は自分たちを導いてくれる“リーダー”であり、そのリーダーが「自分は潔白だ」と言っている以上、彼を信じることに躊躇はないのでしょう。 もちろん、だからと言って、彼が「無実だ」、と信じている人も少ないのです。 黒人系南アフリカ人にとって、とっても大切なのが、この「顔を立てる」というメンタリティなのです。また、“義理人情”というのもアフリカでは大切にするのです。 だからこそ、心の中では彼の無実を信じていなくても、彼のリーダーとしての役割に期待を寄せ、彼のこれからに期待を寄せているのです。「お役所だって、彼の有罪を立証できなかったんだから、もういいじゃないか」という納得の仕方、考え方です。 “アフリカの懐の深さ”、ということを理解したうえで、今回のズマ氏の一連の騒動をご理解いただければ、と思います。 そして、もうひとつここで書き添えておきたいことは、今回の選挙で、ズマ氏の率いる ANC が勝利することはほぼ間違いないとは言え、これまでのように「ANC 圧勝」という事態にはならないかもしれない、ということです。 国民の中には、もちろん、このズマ氏の今回の一連の騒動に愛想をつかしている層も少なからずいて、全体的にみると、ANC の支持率自体もかなり低下している事実もあるからです。 ANCに対して、国民がどれだけ、「NO!」という意見を叩きつけるか、ということも見守っていきたいと思っています。 さて、最後に、この“アフリカの懐の深さ”が、思いがけないところで発揮された、日本がらみのエピソードをご紹介しましょう。実は、自国の次期大統領候補が、こういった過去を持つということは、他の国の政治家のスキャンダルにも別の物差しが働きます。 そうなのです、日本の政治家の中川さん、彼が酩酊状態で記者会見に臨み、そのせいで大臣職を追われたこと、南アでもニュースになっていました。 そして、南ア人はそろって、 「信じられない、なんてかわいそうなんだ、そんな些細なことで職を失うなんて……」 と絶句しておりました。 私は、これを聞いて、「う〜ん、さすが、南ア人、比べる基準が違うよなぁ」と感嘆していたのでした。
by yoshimuramineko
| 2009-04-13 15:04
| アフリカの政治
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